ファンタジーへの誘い@小説 月の物語

とある男女二人が月明かりのもと、会話していた。

「今日は月が綺麗だね」

「え、そ、その言葉……意味、分かってる?」

「ん?思ったことを言っただけだよ?ほら、あんなに綺麗だ」

そういって男が指差す先には、とても明るく輝いている満月があった。

「なーんだ……期待して損した」

「え、そんなに落ち込むこと?」

「落ち込んでないわよ。呆れているの」

「より分からない……」

「ま、いいわ。確かに今日は月が綺麗ね」

女も変に執着せず男の話に乗ったようだ。

「だろう?今日は十六夜だからね」

「そういえばそうだわ。今回は十六夜に満月なのね」

「十六夜……僕はこの名前が好きだ」

「なに、どうしたのよ突然」

「ただ、言いたくなっただけさ」

「ふーん……あっ」

今まで話半分で聞いていた女だったが、ここに来て何か思うことがあるようだった。

「ねぇ、あなたはこの詠を知っているかしら」

──十六夜は
わづかに闇の
初め哉──

「芭蕉か」

その時、男は思った。
──ん?月、芭蕉、俳句、彼女の様子……………これらを合わせると、なるほど──

どうやら、男の中で何らかの問題が解決したらしい。

「そうよ。今日は十六夜、昨日は満月だったけれど今日から段々月は欠け始める。その始まりは今日なのだ。という意味の詠ね」

「一日だけずれているけど、良い詠だね」

「でしょう?」

「ああ。それに、俳句という言葉であることも思い出したしね」

「ん、あること?」

「夜空を見上げてごらん」

女が見上げると、そこには先ほどまであった光輝く月の姿はなく、今にも雨が降りだしそうな様子に変化していた。

「これは、雨宿りが出来る場所を探さなきゃダメね」

そういって動く準備をする女の手を男が掴む。

「何よ?」

「その前に言いたいことがある」

「どうしたの、改まって」

「とりあえず聞いてほしい」

「…………分かったわ」

待って貰えると聞き安心した様子の男だったが、同時にある覚悟も決めたようだ。

「ふぅ……えっと、俺はこの手の話を長引かせたくはない。だから簡潔に言うぞ。さっきは勘違いさせて悪かった。だからもう一度言わせてくれ」

「…………月が、綺麗ですね」