展示団体紹介 ~文芸部[時をかける文芸部]~ 其の五


第五走者 副部長 真道直之

さあさあ、怖くなってきたよ~。


静かな夜だった。

ハチマは、生徒が帰った後の校舎を、一人で歩いていた。前髪が長く、顔が蒼白で、口が大きいハチマは、その風貌から生徒に「幽霊教師」と揶揄されており、学園祭の出し物でお化け屋敷を作る複数のクラスから、装飾の際のモデルになってほしいと頼まれるほどだった。ハチマは自分の風貌にコンプレックスを抱いていたが、最後は断り切れず、被写体となった。その前髪の隙間から、カメラを睨みつけて。

同僚からも、その風貌はネタにされがちだった。赴任してまもなく、オカルト研究同好会の顧問に任命されてから、ずっとそうだった。今もこうして、夜の見回りを押し付けられている。

三階の教室を一部屋ずつ鍵が掛かっていないか確認していくと、ふと、ある、教室の前で足が止まった。

そう。ハチマの顔を装飾のモデルとして写真に収めていったクラスだった。入口には、自分の顔によく似た男が描かれている。そういえば、視察に行ったという女教師が、しきりに「怖かった、怖かった」と言っていたが、確かこのクラスのお化け屋敷だと言っていたような気がする。

ハチマは鍵を回し、ゆっくりと引き戸を引いた。そのまま吸い込まれるように教室の中に入ると、ガタンと音を立てて、引き戸は閉まった。

外には雨が降ってきた。静かな雨音が、学園祭前夜の学校を包み込んでゆく。


ムトウは尻餅をついた。驚愕のあまり、叫び声を上げることすら忘れていた。

その体制のまま、渡り廊下の上を、手の力を使って校舎の方へ後ずさりしてゆく。

そこには、お化け屋敷の入口に描かれたものとまったく同じ顔をした男が立っていた。長い前髪の隙間から、鋭く大きい眼光が威圧するようにこちらを睨みつけている。そして、彼は全身を深紅に染めていた。

再び呼吸が荒れる。額の汗が鼻の先を伝ってゆく。制服の左肩には、べっとりと赤い血が付着している。男は、一歩一歩ゆっくりと近づいてくる。渡り廊下の上には、男の進んだ分だけ、真っ赤な血がヘドロのように貼り付いている。

今すぐ走って逃げだしたかったが、なぜかこの男からは、目を逸らしてはいけないような気がした。そうした瞬間に、再び肩を掴まれてしまうような、そんな気がした。それに、全身が震え、身体が思うように動かない。今は、尻餅をついたままひたすら後ずさりをするだけで精一杯だった。

男は大きく裂けた口をさらに歪ませ、大きな弧を作った。一歩ずつ、ゆっくりと近づいてくる。渡り廊下の屋根に雨が当たる間の抜けた音が、冗談めいていて場違いだった。

ムトウの息遣いはさらに激しくなる。左肩の感覚が抜け落ちてゆく。

「く……来るな!!」

そう心の中で叫び、ムトウは両腕を前に突き出し、掌を広げた。男は歩みを止めない。突き出した左腕の腕時計は、9:05をさしている。ムトウと男との距離は、既に2メートルほどに迫ってきていた。

ムトウの汗の雫がポツリと渡り廊下の地面に垂れた、その時であった。後ろから、薄気味悪い笑い声が聞こえてきた。ムトウは前にいる男にも注意しながら、恐る恐る校舎の方に振り向いた。

そこにはボロボロの洋館がそびえ立っており、割れた大窓がこちらに向かって大きく口を開いていた。そして割れたガラスの前には、ムトウの背後にいるはずの、血だらけの男がムトウを見下ろしていた。外が真っ暗で、月の灯りのみが洋館を照らしていることにムトウが気づいたのは、それから数秒後のことだった。

雷鳴が轟いた。雨はいっそう、激しさを増した。

タイトルとURLをコピーしました