展示団体紹介 ~文芸部[時をかける文芸部]~ 其の一

文芸部では、リレー小説という形式で小説を連載します。リレー小説とは、部員が小説というたすきをつないで一つの小説を完成させるという形式です。


第一走者 部長 白雪デレラ


 学園祭にはあいにくの雨だった。真っ白に濁った空が、垂れ幕やチラシで飾り付けられた巨大な学校を覆っている。ここ十年ほどの学園祭は晴天続きだったので、生徒たちにとっては初めての雨である。高揚した生徒らの気分をなだめるような、静かだが良く降る雨。一日目は雨天のスケジュール。実行委員は手製のスケジュール表に丸をつける。

 「ヘンな雨だな」傘の先端から雫を垂らして、ムトウは教室に現れた。教室の鍵が開いていたので、だれか友人がいるはずだと思っての言葉だったが、教室には誰もいない。鞄も置かれていない。ムトウはため息をつきながら床に散乱したビニールテープやら段ボールやらのゴミをかき集める。あいつらはいつもそうだ。なんでも最後には俺に放り投げるんだ。ムトウは後始末を押しつけてばかりの友人らに少しばかり腹が立ったが、学園祭という場における高揚が苛立ちを押しとどめた。彼のため息はいつのまにか鼻歌に変わっていた。腕時計を見る。8:00。開会まであと二時間だ。

 ムトウは後始末を終えると、改めて教室を眺める。学園祭の定番とも言えるお化け屋敷だが、定番などと言わせないクオリティに仕上がったはずだ。はっきり言って他のお化け屋敷など陳腐だ。満足げに教室を眺めながらムトウは考える。今日の雨だってこの雰囲気におあつらえ向きだ。雨音がいい。雷が鳴ってくれでもしたら最高なんだけど。

 ムトウのお化け屋敷は実際非常に優れていた。前日に視察に訪れた女教師が、手を震わせて悲鳴をあげたほどだ。お化け屋敷としてのムードづくりのために段ボールの継ぎ目や装飾が美しく丁寧で、ストーリーも既存のものではあるにせよ、十分な怖さだった。既視感のあるストーリーだからこそ、来場者がたのしみやすいと考えていた。

 ムトウは赤黒く光る照明をつけ、教室に広がるひとつの世界の創造者として、椅子に深々と腰掛けた。

 「おはようございまーす」陽気な挨拶、傘を荒っぽく置く音が、ムトウのひとときの安らぎを破った。アサダだった。

 「そうか、まだ朝だったな。この電気はいつでも夜みたいに感じるよ」ムトウは答えた。

 「お、片付けといてくれたのー。ありがとさんです」

 とぼけながら、アサダは鞄からコーラをだして飲む。机に置かれたコーラは、作り込まれた空間の中で、ひどく居心地悪そうだった。

 アサダは教室を歩き回りながら、鼻歌を歌っていた。

 「すごく降ってきたなあ」アサダが言って、窓から外を覗くと、にわかに顔色が変わった。

 「ひとりで校庭にいるずぶぬれの男がいんだけど、」ムトウが窓から覗くと、たしかに男がいる。ムトウは思わず小さく叫んだ。

 「あ」それとほぼ同時に、アサダがいった。

 「あいつって、さ」アサダは震える手でゆっくりとお化け屋敷の入口を指さす。そこに描かれた男は、校庭にいる男と同じなのだった。見開かれた目に、蒼白な肌、大きく裂けた口。ムトウが校庭に目を戻したときには、校庭にいる男は、ニヤリと笑いながら、ムトウを見つめていた。男の目が、ムトウを射すくめる。腕時計は、8:30をさしている。

 雷鳴が、とどろいた。

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